b's-garden | 特設 :榎田尤利/著『聖夜』
作品紹介
 2012年12月22日
設計事務所で働く縞岡は、婚約者と訪ねたマンションの内覧会で、
十年ぶりに雨宮那智、アマチと再会した。
十六から十七にかけてのふたりの時間は、北の地の短い夏のような輝きがあった。
長い空白の時間を越えて、再会したときから、縞岡はアマチに触れたくてたまらなくなった。
那智はシマが恋しくてたまらなくなった。
会わないほうがいい。でも、会いたい。 会いたくて、たまらない──
傷つけながら、傷つきながら、恋は深まり……
『聖夜』『名前のない色』に書き下ろし『GRAY』を同時収録。
クリスマスソングの中でも『O Holy Night 』はとくに好きな曲です。『聖夜』はそのイメージで執筆した、自分でもお気に入りの作品になっています。
シマとアマチの20年愛……新装版にあたり、さらに10年後を書き下ろしています。オジサンになっても愛を育んでいるふたりを、お読みいただけると嬉しいです。
同時収録は『名前のない色』。こちらは「色」をテーマにした物語。青い空を見上げたとき、自分の見ている「青」は、他の人が見ている「青」とまったく同じではないはず……そんなことを考えることが、ときどきあります。違っていても、それぞれ美しければ、それでいいのだとも思うのです。
両作品とも、お楽しみいただければ幸いです。

『聖夜』のお気に入りシーンとその理由を教えてください。

27歳で再会したシマとアマチが、再び別れることになる朝のシーン。
『O Holy Night』 がラジオから流れてくるところです。

『名前のない色』のお気に入りシーンとその理由を教えてください。

やはり、ラストの海のシーン。実際、あんなふうに雲の割れ目から降る光を見たことがあり、とても感動しました。
 
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Q 作品集の第三弾『聖夜』発売おめでとうございます! ちょうど発売がクリスマス前になります。季節にぴったりのタイトルですね。作品集もこの作品を含め、残り2冊となりましたが、今の気持ちをおしえてください。
  A 今回で三冊目なわけですが、実質は六冊分なので、なかなかやり甲斐があるというか……思ったより、時間がかかっています。そして過去の自分と対面するのもだいぶ慣れてきました。この頃の私はこの言葉を使うのが好きだったらしい……などと客観的に見られるようになってきました(笑)
Q まずは『名前のない色』から質問させてください。本作では水窪と藤野はイラストレイターと編集者という関係から始まります。榎田先生とも近い存在の職業を選ばれたのには理由はありますか?
  A 自分の仕事はあんまり関係ないですね。でもアートにかかわる人を書くのは好きです。なぜだろう? 多少エキセントリックにしても大丈夫だからでしょうか。
Q 執筆される立場という点では、榎田先生は水窪と同じ立場にありますが、〆切やスランプなど、作家さんならではのエピソードがありましたら教えていただけますか?
  A 私は小説家ですが、芸術家ではないのでそんなに面白いエピソードはないのですよ……(笑)そういえば何年か前、まだうちの猫が仔猫だった頃、パソコンの主電源ボタンをプチリと押されたことがありましたね。キーボードに電源ボタンがついているタイプで、その上を涼しい顔で通過したんです。つまり強制終了ってやつです。「ヒッ!」てなりますね、あれは……。もちろん自動保存設定していたので、ぜんぶのデータがなくなったわけではないのですが、何枚ぶんかはやり直しになりました。いや、猫は悪くないんです。そんなところに主電源ボタンがあるのが悪いんです。なのでパソコンを買い換えればいいのです。猫至上主義。 
Q コメントにて、自分と他の人では見ている色がまったく同じではないはず、とあります。実際にそう感じた体験はありますか?
  A 色に限らず、実はなんでもそうだと思います。私はクサヤが好きですが、クサヤを嫌いな人もいる。その場合、視覚ではなく味覚が私と異なっている。私の好きなオヤジ受けがダメな人もいる。つまり萌ポイントが異なっている。異なっていて当たり前なのだと思います。「みんな違って、みんないい」というやつですね。
Q 今度は『聖夜』についてご質問します。この作品は出会った十代から10年、20年と時間を重ねたふたりの恋愛物語です。恋愛だけでなく、生きるうえでの苦しい部分も書かれていますが、どうしてこの作品を書こうと思われたのか、あらためて教えていただけますか?
  A そんな昔のことは覚えていないのですが(笑)たぶん、とくに意識してはいなかったんじゃないかな。自然に浮かんだ流れだと思います。人が10年20年と歳月を重ねていれば、そりゃつらいことだってあるのは当たり前のことで、その部分を省いてしまうと、キャラクターに説得力がなくなるというか……書きにくいんですよね。恋愛小説はとりたてて大きな事件が起きないぶん、キャラクターの内面が大切になってくるので、やはり人生経験を積んでいる人間じゃないと、私が同調できないみたいです。
Q 今もしこの作品をご執筆されるとしたら、物語の構成でなにか変わったりするでしょうか?
  A これは変わらないと思います。ディティールはべつとして、核になる部分は自分の中で普遍的です。人が出会って、恋をして、傷つけて、周りに迷惑をかけて、許されて、許して、成長しながら大切なものを探す、と。このへんはなにを書いても同じようになってくる部分ですね。
Q

舞台は北海道から始まり沖縄に辿り着きます。寒い場所から暖かい場所へ、作品の雰囲気も登場人物の在り方も大きく変わっています。榎田先生というと沖縄がお好き、という印象もあります。場所にイメージはあったりするのでしょうか?

  A

沖縄は毎年のように行ってますが、北海道はまだ二回しか行ったことがないのです。なので、これを書いた当時は札幌出身の友人(男性)に、いろいろと話を聞きました。雪上サッカーの話だとかね。なので、北海道の場合は私のイメージではなく、取材がもとになっています。
一方で、沖縄は私のイメージから書いている部分が大きいです。八重山諸島のイメージかな。サトウキビ畑と青空ばかりの広々した光景だとか、繁った小道を抜けると現れる珊瑚礁の海だとか。夏に行く場合が多いので、あのイヤになるほどの太陽光線だとか……真夏の離島では、島の人は日中ほとんど歩いてないですからね。うろうろしてるのは、だいたい観光客(笑)本当にすてきな場所です。

Q 書き下ろし『GRAY』は『楽園』からさらに10年後、大人としても成熟した頃のお話になります。書き下ろしが『GRAY』になった理由とタイトルが意味するものをお聞きしてもいいですか?
  A タイトルの意味するところは、まあ単語のままですが、日本語で書くより、すこしぼやかしてみたという……(笑)今回の書き下ろしは、さらに10年後を書くと決めていました。17歳から37歳。そして47歳。人生を一日に喩えたら、もはや夕方になっています。相変わらず一緒にいるふたりなわけですが、周囲はどうなっているのか。また、この年頃になった彼らがなにを考えるのか。そのへんをぜひ書いてみたかったのです。
Q 作品集のラストとなる第四弾には『largo』と『明日が世界の終わりでも』を収録しています。発売は2013年の3月予定です。次回作の読み所を教えてください。
  A 『largo』は音大生が主人公です。若々しく、瑞々しい雰囲気を目指してみました。作中に出てくるのはどれも有名な曲ばかりです。webで検索すれば聴けると思いますので、作品とあわせて楽しんでいただくのもいいかもしれません。そして最後は『明日が世界の終わりでも』ですね。トリにはズシンと重いものを持ってきました。これまたかなり初期の作品ですので、いわゆるJuneっぽい香りが幾ばく漂っているかもしれません。書き下ろしは『明日が世界の終わりでも』のその後の物語になっています。内容を語るより、そのまま読んでいただきたい作品です。よろしくお願いいたします。
Q 読者のみなさまにメッセージをお願いいたします!
  A 街にクリスマスソングの流れる時期ですが、みなさまいかがお過ごしでしょうか。わが家のクリスマスは鍋ものです。美味しそうな鍋セットをお取り寄せしちゃいます。誰かと一緒に食事ができるというのは、幸せなことですよね。うちなんか猫も二匹いて、超幸せです(笑)もし、今はたまたまひとりでも、どこかに家族や友人がいて互いを思いあえるのならば、それもやっぱり幸せなのだと思います。
この寒い時期、暖かいお部屋で拙著を読んでいただければ、そして少しでも心を暖かくしていただければ、作者としてこんな嬉しいことはありません。クリスマスは忙しい方は、どうぞお正月休みにでも。お正月が忙しかったら、そのあとでも、いつでも……(笑)
 読んでくださる方がいるからこそ、私は書き続けられるのです。
 心からの感謝と愛をこめて。
 Merry Christmas and Happy New Year !
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